「沙妃……?」


鳴り止まないアンコールの中、呆然としていた綾乃が私の異変に気づいた。


そして、なぜ私がこうなってしまっているのか、とっさに察したらしい。


「沙妃、よく聞いて。

これは沙妃のせいじゃない。

大丈夫。大丈夫よ。

それに決めつけるのは早いわ」


激流のような感情を、頭上から冷静に見ているもう一人の私がいる。


その私が、やけに深刻な綾乃の口調を滑稽だと思っている。


綾乃だって『Sir.juke』の変わりように穏やかならぬ思いでいるはずなのに。


でも実際の私といえば、おかしいくらいに震えながら真っ青になって、無言で大粒の涙を流すばかりだ。




「あたし、すぐに確かめてくるから。

しっかりするのよ!」




貼りつけたような無表情で、綾乃は会場を飛び出して行った。




アンコールの熱気。


明かりの消えたステージ。


冷たい体。


頬を伝う涙。




視界から色が消えていく。




世界の終わりだ。