あふれるほどの愛を君に


鈴木さんがその話を始めたのは、混み合っていた店内が少し空きはじめた時だった。


「同期なんだよ」


唐突に切り出された一言に主語はなかったが、誰のことを言っているのかは推測できた。


「黒木さんと、ですか?」


聞き返すと鈴木さんは、おーとうなづいた。


「帰国子女ルーキーとか言われて、当時からやたら目立ってたな」


いかにも面白くなさそうに言って、後を続けた。


入社当時、同じ営業部に配属された鈴木さんと黒木さんは、当然一緒に研修も受け、同じ先輩のもとで基礎からみっちりと仕込まれ鍛えられた。

その後、鈴木さんは現在の事業部商品企画課へ、黒木さんは総務部経理課へ異動になった。


「でも黒木さんって、うちに来る前は物流にいたんですよね?」


不思議に思って尋ねると、さっきよりトーンの低い声でこたえた。


「そうだ。経理には半年もいなかったからな」