少しづつ雑談へ進展していった輪から少し離れた席で僕は、一人手もとの資料に目を落としていた。
だけど……。
「飲み会っていえば黒木さんと」
「そうそう、花井さんだろ?」
その名前を耳にした時、思わず顔を上げたんだ。
「一次会からベッタリだったよなー」
「でもあれって黒木さんが一方的だったんじゃなくて?」
「いやいや、花井さんもまんざらでもなかったでしょ」
「まんざらどころじゃないだろ。二次会の後、二人で消えたらしいから」
当然それは、聞き捨てならない話題だった。
小さな噂話は皆の興味をひいて、愉快そうに語られる。
「結構似合いなんじゃね?」
「サクラさんもいい年だし、そろそろ結婚したいっしょ」
「でも黒木さんって、なんかワケありなんでしょ?」
「あー、倉庫屋から来たんだもんな」
「そうそう、知ってたか? 花井さんって婚約者がいたのに去年破談になったって」
「え、なんで?」
どんどんエスカレートしていく雑談に、チームリーダーの鈴木さんが歯止めをかける。
「おいおい、無駄話はそのくらいにしとけよ」
仕方なく、といった様子で各々中断していた作業を再開した。



