「それで成果はあった?」と訊かれ、慌てて首を横にふった。
「偵察なんて、そんなっ」
「ははっ、冗談だよ。でも一応ライバルだからね。どお? そっちのチームは順調に進んでる?」
「ええ、まあ」
落ち着いた雰囲気の黒木さん。
声のトーンも話し方からも、大人の余裕みたいなものが感じられた。
「あの、ここに来たのは、飲み物を買いに来たら灯りがついてたので…」
まさか花井さんを探しに来たなんて言うわけにもいかず、適当な言い訳をして僕は黒木さんの側を離れた。
自販機の前で掌を開き、そこで一度止まる。
振り返りながら、後ろにいる黒木さんに声をかけた。
「何にしますか?」
だけど黒木さんは、僕の申し出をやんわりと断った。
「ありがとう。でも、そろそろ戻らないとチームメイト達に怒られそうだから。特に女性陣にね」
そう言ってニッコリとした表情やその佇まいは、女子社員達をうっとりさせるのも頷けるものだと思った。



