あふれるほどの愛を君に

*・*


 オフィスの窓を打ちつける雨。
当たって形を崩し落下していく粒達。

その様子を無言で見ていた。


窓の向こうにあるのは中庭、その向こうにも窓があって。降り続く雨のせいで中の様子までは伺えない。

ただ、数人の人間が部屋の中にいて、忙しなく動く影だけが確認できる。


「しっかし鬱陶しい雨だなー」


不意に後ろで声がした。

顔を傾けて見ると、モジャモジャ頭をガシガシと掻きながら鈴木さんが立っていた。


「梅雨ですからね~」


同じチームの同僚の一人がこたえる。


「洗濯物が乾かないってウチの嫁さん機嫌悪いんだよ。このジメジメどんだけ続くんだ」

「そうですねぇ……あと二週間か三週間くらいかな~」

「はあ? 三週間!?」

「はいー」

「くぅー! ってオイ、三週間っていったらコンペ後じゃねーか!」

「梅雨なんて毎年のことじゃないですか~さあ無駄話してないでウチらも仕事しないと。雨ばかり見てたら〆切来ちゃいますよ~」


部屋を出ていく二人の背中を見送ったあと、さっきの場所へ視線を戻す。

雨、濡れた植木の枝、ガラス窓、人のシルエット………辿りながら思い浮かべる。

あの中にいるはずの彼女を。


もうすぐ六月も終わる。

そして明日は、サクラさんの29回目の誕生日だ。