「駅まででもいいから、一人にしないで!」


雑居ビルの向こうから一台のタクシーが走り去るのを、星野の肩越しに確認した。

離れてはいるけれど、後ろに乗っているのは確かに彼女だった。


「送る、って言うまで離さないよ。酔ってるせいじゃないんだからっ、わたしだって真剣なんだから!」


星野の頬を伝った細い筋を見て、薄れてた記憶が甦る。

あのファミレスでの、あの日の光景が浮かぶ。あの時もこうやって泣かせたよな、って思いだす。

あの時、想いを受け止められなかったのは、僕が幼かったから。

断るにしたってちゃんと話さなかった。
向き合わなかった。

ひどくつまらない理屈を並べ取り繕って、その答えを正当化したんだ。

子供(ガキ)だった。
そして、いまだって――


「……わかったよ」


呟くように言ったその後、全身を強ばらせていた力を僕はそっと解放した。