あふれるほどの愛を君に


ふざけた星野が僕の背中を叩いて駆けだし、その後を追いかける。

眼下にはヘッドライトの群れ、頭上には星空。
吸い込まれていく、ふたつの笑い声。

階段を駆け降りて二人、顔を見合わせ同時に吹き出す。

まるで高校の頃に戻ったみたいに無邪気ぶって笑い合う。


遠ざかるネオン、置き去りの自転車。
水溜まりにぼんやりと映る外灯。

酔いのせいか錯覚しそうになる。本当にあの頃に戻ったんじゃないかって。

笑顔も声も話し方も変わってないから。あの頃のままだから。

だから、もう制服姿ではない、パステルカラーのピンヒールを履いた姿に違和感を抱いて、彼女を訝しげに見つめた。


「どうしたの?」

「んー……いや、なんでもないよ」


可笑しな人、って言った星野の笑顔がまたはじけた。


「ねぇ、阿久津君」


目の前の信号が点滅を始める。

その先には駅があって、でも僕らはその場に足を止めた。


「ん?」


赤く点灯した信号機。
通り過ぎる車、軋むタイヤの音。

だけど星野の声ははっきりと聞き取ることができた。雑音に負けることなく、はっきりと。


「好きだよ、阿久津君」