その日も残業を終え帰宅したのは、日付が変わるまで残り一時間をきった頃だった。
アパートの近くまで来た僕は、階段の側に立っている人影に目を止めた。
膝丈の淡いブルーのスカートが夜風に揺れていた。
「サクラさん」
近くまで歩いて確認した彼女もまた、疲れているように見えた。
「おかえりなさい、遅かったね」
「うん。どうしたの?」
サクラさん、少し痩せたみたいだ。
近頃では、プライベートな時間はおろか社内でも話すこともなかったから気づかなかったけど。顔と、それから肩の辺りが小さくなったように感じる。
サクラさん達のチームは追いこみに入っていて、僕等は休憩もとれないほど作業に追われている。
ここ最近の僕達の会話といえば、寝る前の僅かな時間に交わす短いLINEでのやり取りだけだった。
そのことをなんとなく悔やんだ。
物理的にも仕方のないことだけど。忙しいのはこっちばかりじゃないし。
でも、いつもより小さな影を見おろした僕は、胸のずっと奥の方に微かな痛みを覚えた。



