ただ座ってるだけなのに息を切らしかけている僕は、ゆっくりと顔を上げて。


──そうか、そういうことだったのか………。


鈴木さんがさっき口にした言葉を今更認識していた。こうなることを知っていての発言だったんだ、と。

情けなくも意気消沈しかけ隣に視線を送ると、一瞬だけ意味ありげな笑顔を向けられた。


自分達が抱えている問題を説明し終えた鈴木さんは、拳を握りしめ教授の返事を待っている。

以前、筒井教授を訪ねて来たものの生憎教授は不在だったこと。その時にお願いしたかったこと。そして今、大変な窮地に立っていることを………。

そして僕は、少し前にたった一口だけ口にしたお茶の味……というか、妙にザラついた感触を払拭できずに変な汗をかいていた。

深い溜め息をこぼしそうになった時、教授が口を開いた。


「よし、事情は承知した。
 どうだ、お若いの。この菓子を全部たいらげてくれたなら、私の浅知恵を貸してやってもいいぞ」

「……え」

「ははっ冗談だよ。よしっ、君達の力になれるかわからんが少し時間をくれ。明後日までには連絡をしよう」


二人で同時に息をついた。

まだ安堵できたわけじゃない。でも、会社を飛び出した時より心の波立ちは、幾分穏やかにはなっていた。

それは鈴木さんも同じなようで。


「ささ、お若いの、菓子のほうも早く食べんかい」


この筒井教授が纏う雰囲気と、冗談ともとれぬもてなしのせいかもしれない。


「教授、茶菓子はまた改めて頂きに参ります。この若造が必ず。
 阿久津、急いで社に戻るぞ!」

「は、はい」