「そんな堅い顔すなさんな。そうだ、まずはお茶にしようじゃないか」
そう言ってニコリとした教授は、そそくさと部屋を出て行った。
そして。
「阿久津……お前、胃腸のほうは強かったよな?」
ぽつりと鈴木さんが吐いたのは、部屋のドアが軋んだ音を立ててすぐのことだった。
ハラノホウ?
質問された意味が理解できず、真横に座る鈴木さんに顔を向ける。
「俺には妻もいるし、もうすぐ子供も生まれる。いま倒れるわけにはいかないんだ。まだ見ぬ我が子のため会社のために、だから耐えてくれ!」
「え?」
「もしも万が一のことがあった時は、そうだな……その時は、その時は……若さで乗りきってくれ! 阿久津、頼む!!」
「……」
何を言いたいのかよくわからない。それとも何かの冗談か?
にしても、主語がないが……。
「あの鈴木さん、なんの話でしょう」
急に隣で頭を下げられて戸惑う僕が、たどたどしく投げかけようとした言葉は、軋むドアの音と能天気な声に遮られた。
「君達は本当にラッキーだ。今日は特別いいのがあってな、お茶も茶菓子も最高のやつだぞ」
筒井教授は実に幸せそうな笑顔を浮かべ、僕ら二人の前に現れた。



