筒井教授は、想像してた人物とはちょっと違っていた。


「なんだって今日は、随分と険しい顔をしてるんだな」


十畳ほどの部屋の中、笑い顔の教授が鈴木さんの顔を見た。

両耳をすっぽりと覆う白髪混じりの伸びきった髪、染みだらけの白衣、鼻緒の擦りへった雪駄履き。

清潔とは言い難い出で立ちだが、不潔とまでは言い難い。

額や目尻に深く刻まれた皺からは、とっくに還暦を過ぎてるような印象を受けるけど……でも、案外見た目よりずっと若いのかもしれない。

どこか少年のような面影を感じるのも確かで、年齢不詳といったところか。


「それで、そっちのお若いのは?」


不意に視線を向けられた僕が、その場に立ち上がるのとほぼ同時に鈴木さんが答える。


「会社の後輩の阿久津 陽です」

「ほう。それで、私の留守中に何度も連絡をもらったようだが」

「はいっ、教授の力をどうか……いや、是非ともお貸しください!」


深々と頭を下げた鈴木さんの隣で、僕も慌ててそれに習った。

90度に腰を折った僕の視界に入り込んだのは、破けた布地の切れ間からスポンジがはみ出したソファの足だった。

いかにも日当たりの悪そうな室内は少し黴臭く。
一つだけある窓を背に古い木製の机、壁際には本棚が並び、その前にはダンボールが無造作に置かれていた。