ミーティングルームに戻ったものの、部屋の中に漂う空気は決して良いものではなかった。


「鈴木さん、このままでいいんですか!?」


誰もが胸の中に、抑えきれない怒りを満たしていた。


「仕方がないだろ。証拠はないんだし、何より揉めてる時間だって俺達にはないんだ」


鈴木さんの言う通りだった。
期限まで後一ヶ月、残された時間は僅かだ。


「真似されたのはどの程度だ?」


尋ねられた沢井さんが打ち明けると、今度は皆の顔に落胆の色が浮かび上がった。


……どうしたらいいんだ?
このままでは、ほぼ同じ中身で勝負することになる。

そんなこと、上が許すだろうか。
社内コンペの席を騒然とさせることが目に見えている。

原料もカテゴリも同じなんて有り得ない。問題にされるだろう。


──それにしても……。

言葉にならない怒りが沸々と湧き起こる。

さっきは騒ぎの様子を黙って見ていたけど、盗まれたのであればやはり許せない。

海洋深層水の調査は他の誰でもない。鈴木さんと僕が集め調べた情報なのに……。

ふと、サクラさんの顔が目に浮かんだ。あの喧騒の中、冷静な表情で立っていた彼女の顔が。

サクラさんは、何も感ずかなかったのかな……?

そんな思いと共に、握りしめた両拳に力を込めた。