手に取ってみると、少し難しい経済学の本のようだ。

 冒頭から五分の一くらいのところに、押し花の付いた栞が挟んであるのを見て、和成は目を細めた。


「へぇ、少しは勉強してたんだ」


 和成は栞をはずし、本を元に戻すと書斎を出た。

 さらに二、三の部屋を覗いた後、たどり着いた部屋はこれまで見た部屋とは明らかに違っていた。

 そこには女の子の生活の匂いが漂っている。
 紗也の私室に違いない。

 部屋のあちこちに人形や造花が飾られ、鏡台の鏡の前には色とりどりの瓶が並んでいる。

 よく見ると、調度品や雑貨、小物入れ、人形の着物に、窓にかけられた日よけの布まで、花柄のものが多い。

 和成は書斎から持ってきた栞の押し花をチラリと見て呟いた。


「花が好きだったのかな」