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小夜子と出会ったのは今から六年前の春、大学に入学したばかりの頃だ。

初めて彼女をみたのは大学の食堂で、何百人といる学生の中でも、彼女だけが目に焼き付いたのを覚えている。
キャンパスを優雅に歩く彼女が、同じ学年、学科であることに気づくのには、そう時間がかからなかった。

滝本小夜子はどこにいても目立つ存在だったのだ。



そんな彼女と初めてまともに話をしたのは、その年の秋。

レポートを提出するために乗ったエレベーターの中だった。

僕は彼女と偶然同じ英文学のゼミをとっていて、彼女もこれまた偶然(いま思えばこれも何かの縁だったのだ)、レポートを研究室に提出するためにエレベーターに乗ってきた。

僕は彼女と目が合うと適当に挨拶した。
彼女も同じように返してくる。

それから最上階である9階のボタンを押して僕は黙り込むつもりだったのだが、彼女はいきなり、初めての会話にふさわしくない質問をぶつけてきた。