けれどそれが、ときどき恐怖に変わることもあった。


真夜中、小夜子の夢にうなされて目を覚ます。
汗をかいて気持ちの悪い身体には、いつものやるせなさと苦痛が重く沈んでいる。

眠れなくて寝返りをうつと、紙の小夜子で溢れたその机が目に入った。


そんなとき、僕はたまらなく恐ろしくなるのだ。

自分の身体は異常なのかもしれないという、現実を突きつけられる。


いなくなってしまった今も忘れられず、むしろ日を追うごとに気持ちは強くなっていく。
失ってからのほうが、彼女に対してずっとずっと深い愛を抱いていた。

涙を流す彼女の夢からも、彼女が望む言葉を言えなかったことへの後悔からも、いまだ解放されることがなかった。


そうして、目の前に存在もしない、記憶の中の彼女に欲情する。


僕は深みを増していく自分の感情が、どこへ向かっているのかわからず、怖かった。


このまま一生、彼女の記憶に思いを馳せながら、異常者のように彼女を頭の中で思い描き、それを文字にし、彼女に欲情し続けるのか。

このどうしようもない感情を、僕はいったいどこまで深く突き詰めていくのか。

彼女はもういないというのに。
彼女にこの思いは届かないというのに。


火力をあげ、加速し続ける列車が向かう先に、未来なんてない。
そこには崖が待っていると、わかりきっているのだ。
わかりきっているのに、決して止まろうとはしない。


僕はそれが、たまらなく恐ろしかった。