小夜子の姿を見たのは、あの日が最後だった。
あれから数日後、彼女のアパートに行ってみると、部屋はもぬけの殻だった。
僕たちが夏を過ごした痕跡は跡形もなく、ただの静まり返った空間になっていた。
何一つ残っていなかった。
窓から差しこむ夕日がフローリングに反射して、妙に明るい。
嵐のあとの静けさのような、穏やかな空間を目の前に、僕は吐きそうになった。
すぐに携帯電話を取り出し、小夜子の番号に電話をかけたが、繋がらなかった。
呆然とする僕に、何の感情も持たない女の声が告げる。
おかけになった番号は、現在…
その声を聞き終わる前に、僕は携帯電話を床にたたきつけていた。
誰もいない部屋で、僕は崩れ落ちた。
どうしようもない絶望が襲いかかってくる。
「小夜子」
名前を呼んでも、僕の記憶の中の彼女は振り向いてはくれなかった。
僕の声なんか気にも留めず、彼女はひたすら前を向いて歩いている。
僕だけがその場から動けずにいた。
気づけばフローリングは濡れていた。
誰もいない穏やかな部屋で、僕は一晩中、彼女の帰りを待っていた。
それでも、小夜子が帰ってくることは、永遠になかった。