底なし沼の底に僕らの足がついたのは、夏休みを残すところあと一週間とした時だった。

長い長い夏が終わりを迎え、すぐそこに現実が待ち構えていたあの頃。
その現実に目を背け、残された日々を全力で駆け抜けていた。

そうして、僕らの夏は小夜子の一言で終わりを告げることになる。






その日、小夜子は珍しく街へ行こうと言った。

ここ何日か、特に小夜子が東京旅行から帰ってきてからは、外の暑さに耐えられず、小夜子の部屋で過ごすことがほとんどだった。
最近は気分を変えようとラブホテルを利用したり、食事をとるくらいでしか街へ出掛けていなかったのだ。

その日はいつもより日差しも弱く、生ぬるい風の吹く日だった。
小夜子の提案が午後五時頃だったので、街に着いた時には日が暮れ始めていた。


「どこにいくの」


そう尋ねても、小夜子は来ればわかるとしか言わなかった。

夕暮れ時、街の大通りはこれから飲みに繰り出そうと意気込み、胸を躍らせた人たちで溢れていた。