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「東京に行ってくる」
夏休みを一か月ほど過ぎたころ、小夜子は言った。
朝目覚めると、彼女は下着姿のままベッドの下にキャリーバッグを広げ、荷物を詰めていた。
カーテンの隙間から漏れる朝日が、彼女の白い背中を照らしている。
枕もとの時計を見ると、まだ午前六時を少し過ぎたくらいだった。
クローゼットからは大量の洋服が溢れ出ていた。
それを適当に拾い胸にあて、鏡の中の自分をチェックし、気に入ったものを詰めていく。
僕は重たい瞼をこじ開けてベッドから起き上がる。
「…東京?」
僕が起き上がると小夜子はこちらに身を乗り出して、僕の胸にキスをした。
僕も彼女の柔らかい髪に同じことをする。
「そう。従妹が住んでるの。毎年、夏は必ず遊びに行ってる」
「いつ行くの」
「今日の午後には出ようかなって。そうすれば夕方には着けるでしょう」
「ずいぶんと急な話だね」
彼女の細い指が僕の鎖骨を撫でる。
そのまま上へ流れ、僕の頬を触るのだ。
「ごめんなさい。本当は一週間後の予定だったんだけど、早まっちゃって」
「どれくらい」
「五日経ったら、戻ってくるわ」
真っ赤な唇が笑った。
白い歯をのぞかせ僕を意地悪な目で見つめる。
「ねえ、いま、寂しいって思ったでしょ」
小夜子は嬉しそうに僕の鼻をつまんで言う。
僕も悔しくて彼女の鼻をつまみ返してやった。
それが可笑しくて二人で笑った。
彼女の指が僕の鼻から唇へと移動する。
唇の線をなぞるように撫で、その動作をじっと眺めている。
そうしてそっとキスをした。
「…わたしがいない間は、セックス禁止だからね」
ふりそそぐ朝日が、きれいな彼女をより美しく照らしていた。
彼女の鎖骨に、胸に、目元に、わずかな影が生まれる。
その影ですら美しく、吸い込まれそうなほど魅力的だった。
「ほかの女とは寝ないよ」
「あ、もちろんAVで抜くのも禁止だから」
小夜子はにやりと笑う。
それから僕の鼻をも一度つまんで、憎らしいほど可愛い顔で言うのだ。
「帰ってきたら、五日分のやらしいこと、しようね」