小夜子は真剣な顔をして流れていく人々を見つめていた。
僕が「何が」と尋ねると、彼女は笑って僕の手を握った。
「人間って不思議だね。あの三人組も…大学生も、高校生も、女も男も。夜、誰かとどんなに激しいキスをしても、どんなに息の詰まるようなセックスをしても、朝になると平然と服を着て歩いてる。平然と学校や職場に行く。いろんなものを身に着けて、みんなお洒落して気取ってるけど、夜は誰かと裸になって、すごくいやらしいことをしてる。そう考えると、こうやってたくさんの人が歩いてるのって、すごく滑稽で、可笑しいなって」
小夜子はそう言うと、僕の持つアイスティーを手に取った。
ふたを開けて、カップに口をつけ中身をすべて口に流し込んでいく。
それからカップを投げ捨てると、僕の頬を両手ではさんだ。
そうしてそのまま、唇を押し付けてきた。
次の瞬間、僕の首に小夜子の腕が絡みつき、強い力で引き寄せられる。
小夜子が精いっぱい背伸びをすると、中腰になった僕の頭はゆうに超えた。
すると彼女の唇の間から、生ぬるい液体が流れ込んできた。
それは僕の舌を流れ、ゆっくりと、のどを過ぎていく。
口のなかに紅茶の香りと、砂糖の甘味が広がる。
二人の唇のあいだから漏れた水が顎をつたい、僕の首筋を流れた。
僕は彼女の口から流れ出る液体をすべて飲み干した。
濡れた音をたてて、僕たちの唇は離れる。
「…美味しい?」
濡れた小夜子の唇は、いやらしくぬめっていた。
小夜子はじっと、僕の答えを待つようにこちらを見つめていた。
「…甘い」
僕はかすれた声で答える。
すると彼女の唇は笑って、も一度、僕の唇と重なった。
今度はアイスティーじゃなくて、生温かい彼女の舌が入ってきた。
通り過ぎていく人の何人かがこちらを見ていたけれど、僕らはまったく気にしなかった。
街はいつもたくさんの人で溢れていた。
けれど同時に、僕らはいつも世界に二人きりだった。
だから、小夜子はこんなふうに、ところかまわず僕の身体を抱きしめてキスをする。
大胆で、スリリングなキスだ。
