猫 の 帰 る 城





「どこ」

「ほら、あそこ、あのおかしな三人組」


小夜子の指差すほうに目をやる。
そこには若い男がふたりと、やたら露出過多な洋服を身に着けた女の三人組の姿があった。

確かに妙だ。

女を真ん中に、男がそれをはさむようにして歩いているが、三人ともの距離が近すぎる。
一方の男は女と腕をからめ、一方の男は女の耳元に顔を寄せて何かを言っている。

カップルとその友人、というにしては妙な空気だ。
そのまま三人は例のファッションビルへと消えていく。
僕はそれを見届けて言う。


「十時間後、三人でラブホに百円賭ける」


すると小夜子が、何か新しい発見でもしたかのような顔で僕を見た。
アイスティーのストローを舌で舐めて、得意げに言うのだ。


「いや、待ちきれなくて夕方にはやっちゃってるに百円」


二人で声をたてて笑った。
僕は小夜子の持っていたアイスティーを手に取りながら言う。


「じゃあ、あの大学生っぽいカップルはどう」


小夜子はわざとらしく腕組みをして、真剣な顔をする。


「うーん。男のほうが、だらしないツラしてるでしょ。ああいうのに限って性欲底なしなのよ。たぶん昨日はお泊りなんかしちゃって、夜通しやりまくってたに百円」


僕はだらしないツラとやらを見た。
女の腰に手を回し、ファッションビルへと消えていく。
面白がって、さらに尋ねてみる。


「あそこの高校生ふたりは」

「あれはまだよ。まだやってない。女の子はなんか色っぽいけど、男は垢抜けない感じ。童貞に百円」

「その隣の可愛い女の子は」

「単なるビッチね」

「斜め前のおとなしそうな美少年は」

「あれはホモ」

「むこうのミニスカートの女の子」

「断然ヴァージン」


僕たちはファッションビルの外壁にもたれながら、人知れず笑った。

目の前を多くの人が流れていくけれど、誰も僕たちのことは気に留めていなかった。
誰もが自分の隣の人間や、自分自身だけのことを考え僕らの前を通り過ぎていく。


僕は小夜子の舐めたストローでアイスティーを吸った。
彼女はそれをじっと見つめ、僕の肩に顔を寄せる。
それから小さな声で、「変なの」と、つぶやいた。