「じゃあわたし、雑誌も見てくから。どうやらお邪魔虫みたいだしね」


真優はまだ小夜子にいろいろ聞きたいことがあったようだ。

何かを言おうとしたけれど、小夜子は真優にその隙を与えず先手を打った。
せっかく上手くいっているうちに、つまりはボロが出ないうちにさっさと退散してしまおうという魂胆だ。

ハイヒールのかかとを鳴らして、彼女は僕の横を通りすぎた。

それから文庫本を持つ右手をあげてこちらを振り返った。
美しい微笑み、時間の止まった彫刻のような微笑みを僕に向けて。


「また学校でね、矢野くん」


雑誌のコーナーへと消えていく小夜子の後ろ姿は完璧だった。
何万という本に囲まれたランウェイを、胸を張って歩く。
優秀な対応でアクシデントを乗り切った、自信に満ち溢れた背中だ。


「きれいな人だね。同い年なんて信じられない」


僕は真優の顔を盗み見た。

純粋に小夜子の後ろ姿を見つめているようにも見えたし、その姿の向こうにあるものを見据えているようにも思えた。
ただでさえ真優に疑心を持つ僕には、どちらが正解であるかなんて判断出来なかった。


だから真優の欲しがっている言葉にも気づかずに、平然と言ってしまったのだ。




「…そうだね」