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その日の彼女は、どこかおかしかった。
「今日のヒロ、なんか楽しそうだったよね」
隣を歩く真優が不意にそう呟いた。
アルバイトのあと、二人で駅までの道を歩いていたときだ。
アルバイト先の書店はショッピングモールの中にあるので、いつも五分ほど歩かなければならない。自転車で通勤する僕は電車を利用しないけれど、真優を駅まで送るのが日課になっていた。
「どうしたんだよ、急に」
駅までの近道であるこの道は人気がない。
道は線路に沿って駅へと続いている。その線路の上を、ときどき電車が通過するぐらいだ。街灯も少ないから、以前、真優はなんだか不気味だと言った。それから僕は真優を駅まで送ることにしたのだ。
真優は真ん丸の瞳をこちらに向けた。
僕が好きだと言ったから、髪型は出会った頃から変わらないショートヘアだ。今日は寝癖をつけているせいか、いつもより子犬感が出ている。真優は例えるなら小型犬、僕のイメージはチワワなのだけれど、そう言うと彼女はいつも怒るのだ。
