猫 の 帰 る 城





しかしそれが間違いだったのかもしれない。
小夜子との関係を断ち切っていれば、僕の未来は変わっていただろう。



真優と初めてセックスしたのは、それから三ヶ月後のことだった。


そのころには真優のことは大切に思っていて、身体を重ねられたときはひどく嬉しかった。

けれど、終わってみればどこか不思議な感覚を覚えていた。
僕はおかしいと思った。

何が悪いとか、一目で見分けのつく問題点が取り立ててあるわけじゃなかった。
なにか違う、なにか足りない。
そんなぼんやりとした、けれどはっきりとわかる感覚だった。

幸福の中に強い違和感を感じとったのだ。


一緒にいることは楽しくて、だからセックスもきっと素晴らしいだろうという、妙な期待があったのは事実だ。
それがいけなかったのだろうか。

それとも、これが初めてのセックスだったからかもしれない。
これから徐々にお互いの身体を理解していけばわかるのかもしれない。



けれど、何度身体を重ねても僕の中の違和感は消えなかった。

そうして何度目かの夜、その感覚がやっとわかった。
僕が感じたのは真優の身体に対してじゃなかった。


真優とのセックスを、小夜子のそれと比べてしまうのだ。


真優の身体に触れながら、小夜子のことを思い出していることに気づいたのだ。
真優の身体を抱きしめながら、僕は小夜子のことを抱きしめている。
だから小夜子と異なる波を持つ真優に、違和感を感じたのだ。


それを自覚して、とてつもなく怖くなった。

僕は小夜子に惹かれ初めているのかもしれない。


それは感情を抜きにした、割り切った関係を維持していくことにおいて最も恐ろしい障害になりうるのだ。

だから僕はそれに気づいて、気づかぬふりをした。


気づかぬふりをして、真優と会った。