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付き合い始めた彼女、真優は本当に優しくて良い子だった。
機転もきくし、話もあうし、無理をすることなく一緒にいて楽しかった。
休みの日には映画を観に行ったり、兄貴の車を拝借してドライブしたり、デートらしいデートをした。
真優は小夜子と違って、きちんとした女の子だった。
約束も守る。わがままも言わない。
下品なことも言わないし、自分からキスをするにも顔を真っ赤にするような、そんな可愛らしい子だった。
大学は違ったが、アルバイトの後や休日には欠かさず会うようにした。
それと比例するように、小夜子と会う時間が減っていった。
小夜子もあれで僕に気を遣っているのだろう。
付き合いだしたと告げたその夜、彼女は僕のシャツのボタンに手をかけて言ったのだ。
「ねえ、彼女さんのこと気にしてるのなら、やめてもいいよ」
思ってもいなかった言葉に、僕は驚いて自分の身体の下に横たわる小夜子を見下ろした。
薄暗い、月明かりがかすかに差し込むこの部屋は、僕らのオキマリだ。
いつになくまじめな顔をした小夜子が可笑しかった。
「服脱がせながら言うセリフじゃないと思うけど」
「だってヒロト、意外と神経質じゃない。彼女さんに悪いとか思ってて、お情けでされちゃあね。わたしだってたまらないもの」
小夜子の指がするりとボタンから離れた。
「…もし、わたしとのこと解消したいなら言って」
小夜子の目は真剣だった。
本気で僕らのことを気にしているようだった。
だけど僕はそんなことを微塵も考えもしていなかった。
小夜子が思っているほど神経質でもなければ、常識のある人間でもなかったらしい。
僕は離れていった小夜子の右手を掴み、自分の胸元に誘導する。
「小夜子。僕との関係性はなに」
「…おともだち。セックスはするけど、おともだち」
「じゃあ問題ない」
小夜子は笑って、僕のボタンに手をかけた。
