猫 の 帰 る 城







「それで、どんな子なの」


窓際の席をとって正解だった。
午後の春の日差しは暖かく、心地よい。

大きな窓ガラスの向こうを、パステルカラーの洋服を着た女の子たちが次々と歩き去っていく。
小夜子も見たことのない春物のジャケットを着ていた。


「すごく良い子だよ。明るくて社交的だし、真面目なんだ」

「ふうん…」


小夜子は眉間に皺を寄せ、アイスティーをひとくち飲んで言う。


「わたしも一応、大学では社交的キャラなんだけどな」

「あと、本をよく読む。なかなか話が合いそうなんだ」

「わたしだって、恋愛小説くらいなら読むわ」

「推理小説」

「それは読まない」

「近代文学」

「教科書でちょっと」

「小柄で可愛いんだ。153センチくらいかな」

「わたしが11歳で通過した数字ね」

「それと、僕の理想のショートカットがよく似合ってる」

「ねえ」



思い切り顔をしかめて僕を見る。


「遠回しにわたし批判してるでしょ」


僕は笑った。
小夜子はしかめっつらのまま僕を睨んでいる。
からかったつもりが、どうやら小夜子は気にしているようだった。


「目の前にこんないい女がいるんだから、ちょっとくらいけなして紹介しなさいよ」


残っていたアイスティーを、わざと音を立ててすすった。
そのままストローを無駄にグラスの中で回し続ける。
行儀が悪いったらありゃしない。
それが可笑しくて、また笑ってしまった。


「なに、ひょっとして妬いてるの」






だからいま考えても、この言葉は冗談として発したものだった。

拗ねた小夜子が可笑しかったから、もっと顔をしかめさせてやろうと思って言ってみたのだ。本当にただそれだけだったのだ。

でも僕の予想とは反対に、小夜子の顔から笑みが消えた。
真剣な顔つきになる。

そしてそれは一瞬のことだった。

表情は途端に元の笑みに戻る。
穏やかで、余裕のある微笑みだ。

瞬間的な変化だったけれど、僕はそれを見逃さなかった。





「…さあ、どうだろうね?」