縋るように掴んだシャツの感触も頬に掛かる吐息も、おそらく未来永劫忘れることはないだろう。

「愛してるって…そう言ったら笑う?」
「侑士を、か?それとも…」
「訊くの?ホント意地が悪いわね」
「お前に言われたかねぇよ。でも…」

突き放された体が、頼るものを失ってふらりとよろめく。
咄嗟に掴んだひんやりとしたデスクの感触でさえも、異世界の物のようでやけに触り心地が悪かった。



「お前にその言葉は言わせねぇよ。絶対に」



鋭い目は、責めているわけでもなく、嫌悪感を剥き出しにしているわけでもなく。
寂しさよりも悲しい、もっと深い青。真っ白になって行く世界の中で、ただ一つだけ残る色彩。

「存分に後悔すれば良いさ。俺の腕の中から逃げ出したことをな」
「後悔なんてしないわ。だって、朔也はあたしを愛してるんでしょ?」
「あぁ。愛してる」

朔也の発する言葉の全てが、あたしにとっての最高の至福。


どうしてあの時侑士の手を取ってしまったのだろう。
どうして永遠に続くだろう至福の時よりも、一時の快感を選んでしまったのだろう。


それが女という生き物だとすれば、黙って従うしかないのだろうか。