「如何するの?結婚」


本気で拒絶したいのだろうか。時々自分でもわからなくなる時がある。
確かに、今の恋人と出会ってからあたしの世界は広がった。けれど、広がりを求めて良かったのだろうか。


狭く閉ざされた世界で生きることを運命付けられているたのだとすれば、あたしはもう既にそれに背いている。


これ以上に背くことが許される?そんな筈は無い。

「お前こそ如何するんだよ。本気で侑士と結婚する気か?」
「本気…かな。そのつもりではいるけど」
「曖昧な返事だな」

選択肢が一つしかないことはわかっていたのだけれど、悪戯に足掻いてみたくなった。
そう言えば上手い言い訳になるだろうか。侑士もそれで納得してくれるだろうか。

「大問題よね。どっちを取っても将来有望。迷うわ」
「お前にとっては、な」
「朔也にとっても、でしょ?あの人と結婚すれば会社は安泰。けど、あたしと結婚すれば乗っ取られるかも?」
「とんだ悪女だな」

何と表現すれば良いのだろうか。この心地良い空間を。
大病院の医院長の息子である侑士の恋人であり、大会社の役員の息子である朔也の恋人。


二つの顔がいつしか一つになる時は来るのだろうか。来るとすれば、その時あたしはどちらを選べば良いのだろうか。
不安の軸になるのは、大きな迷い。


捨てきれない。
けれど捨てなければならない。