L.A.からの手紙を開く朔也の姿を見るのは、ここ最近ではご無沙汰のような気がする。

定期的に送られては来るものなのだけれど、封を切る前にゴミ箱へ。終業時刻には焼却炉へとその想いは消えて行く。

冷たい男ね。と、嫌味全開で呟いたことは何度かあるのだけれど、この男は決してその悠然とした態度を崩しはしなかった。


それが今、目の前には国際郵便独特の便箋。
何枚もにわけて綴られた想いを丁寧に拾いながら、珍しくも優しい目をしている。


冷たくしすぎて頭の線が二、三本切れてしまっただろうか。心配事はただそれだけ。



「結婚するの?あの人と」



我ながら無粋な質問だとは思ったのだけれど、それだけは訊いておく必要が有る。
結婚式に出席するには、それなりに準備をする必要がある。そんな言い訳を何度も頭の中で繰り返しながら。


「さぁな」


実に曖昧な返事なのだけれど、それは朔也にとっての肯定。拒否を決めたならば、どんな柵があろうとも決して屈しないのがこの男。

とうとう年貢の納め時だろうか。と、投げ置かれた便箋の端に見えた「with love」の文字の魔力を改めて凄いと思った。

「良いんじゃない?あの人なら」
「だろうな」
「但し、うちの父が如何出るかよね。何せ、あたしが鳳家に嫁がないことには会社乗っ取り計画はそこで終わり」
「だな」

不機嫌なわけでもなく、かと言って上機嫌なわけでもなく。
短く淡々と言葉を返すこの男は、今何を考えているだろう。試したいわけではないのだけれど。