それは、ほんの一瞬の出来事。
軽く瞬きをするとか、唇が掠めるように触れるとか。そんなものとよく似ているのかもしれない。


けれど、その一瞬はとてつもなく大きな力を持っている。


持続性もそうなのだけれど、刹那にして心を奪い取り、残る全ての時を奪い去る。
奪い取られた側のあたしは、ただただ本能に従って自己防衛をするしか術がなくなってしまうのだ。


そして、奪い取った側の彼は、いつもにも増して胡散臭い顔で微笑む。




抵抗することさえ忘れてしまったあたしは、その言葉の前では生まれたばかりの赤子のように無力で。優しく守るように回される腕に身を任せ、可も無く不可も無く。


擡げたままの首を動かすことでさえ面倒で。