発車を知らせるアナウンスが流れ、小さく縮こまるように膝を抱えてその時を待つ。
何度聞いても好きになれるはずもない別れのアナウンスに耳を塞ぐその行為は、あの後あたしが地元へ帰ってしまってから始まったもので、侑士自身はそんなあたしの頭を撫でて「また来るから」と不確かな約束の言葉を残して去って行く。


「美雨」


振り返るものか。と、全身全霊を込めてその声を拒絶する。
何度味わってもこの苦痛だけは有り難いことに遣り切れない思いだけを残してくれる。


「美雨、こっち向いて?」


耳から引き離された手は、どことなく小刻みに震えていて。強くあろうと思えば思うほど、あたしの心はそれを拒否していた。

「ゆう…し。行った…嫌や」
「さっきはさっさと行け言うたくせに」
「嫌や…行ったら嫌。傍におって」
「しゃぁないなぁ。美雨はホンマ我儘なんやから」

絶対に言わないと決めていた台詞は、一度その誓いを破ると簡単に零れるもので。
愛人という面倒な立場も、公衆の面前であるという恥ずかしさも、全て忘れてしまうくらいに思いつくだけの言葉を並べる。

「嘘つきは…侑士の方やんか」
「せやな」
「美雨以外に誰も愛さへん。って言うたくせに」
「言うたなぁ」
「もう傷つけへんって…」
「それも言うたなぁ」
「この大嘘つき。侑士なんか…嫌いや」
「俺は好きやで、美雨。愛してる」

この言葉を聞く度、背負う罪が少しずつ許されていく気がする。
そんな考えは甘いだろうか。