「なぁ、侑士?」
「ん?」
「歩くん速いと思わへん?」
「ん?あー、ごめん」

暫らくはその歩調に合わせていたものの、細いヒール、しかも7センチで歩き続けるには速度の限界というものがある。
いつもならば、言わなくとも全てをあたしに合わせてくれる気の利く男だというのに。


考える余裕すら無くすくらい動揺しとるなら会いに来んな。


そんな想いを込めて睨み上げようとも、幸か不幸かじっと前を見据えたままの瞳は気付きもしなかった。

まぁ、気付かないからこそしていることなのだけれど。


ギブアップをしたあたしの肩を抱き、いつもよりも少し早めの列車に乗るためにただひたすらに足は進められ、余計なことにその真剣な横顔が奥深くにしまい込んだ記憶の糸を手繰り寄せてくれた。


「病院以来やな」


独り言のつもりだったのだけれど、閑散とした構内にはそれがよく響き渡っていて。
その証拠に、抱かれた右肩に強い圧迫感を感じる。