「三人目、生まれたわ」

まだキツイ日差しを片手を挙げて遮りながら、心底面倒臭そうに唇が動く。
何も言わずにただじっと前を見据え、ゆっくりとでもまだ動いていた足を止めて振り返った侑士は、その表情に不釣合いなくらいに寂しそうな瞳をしていた。

付き合いが長い分だけ、こうした時の微かな訴えはすぐに察知出来る。それが良いものとは限らないけれど。

現に、目の前の女は特別気の利いた言葉が言える女でもないし、その一言に気持ちを掻き乱されないほど大人でもないのだから。

「おめでとう?」
「めでたいんやらそうでないんやら。複雑やな」
「おめでたいんやない?子供に罪は無いわけやし」
「まぁな。ごめんなぁ、こんな悪い父親で。って感じかな」

再び動き出した足に合わせるように少し歩調を速め、絡めた腕に頬をぴたりと寄せながら想いに耽る横顔を見上げた。

普段ならばすぐにその視線に気付いて優しい笑みの一つでも返してくれるのだけれど、何を想っているのか今の侑士の視線はただ前を見据えたまま微動だにしなくて。


想われているのはあの人だろうか?
それとも、生まれて来た子供だろうか?


合わせることを忘れた歩調があたしを引き、カツカツとヒールの音が響く構内をただひたすらに歩き続ける。

少しひんやりとした、まるで現実世界から離れてしまったかのような空気が漂う構内には、夏の日差しはもう届かなかった。