時間という目に見えないけれど死ぬまで流れるものを自分の物にしたいと思ってくれることや、奥さんよりもあたしを優先してくれることは嬉しいのだけれど、それを表に出すにはあたしは諦めを覚えすぎていて。

手には入らないだろう儚い夢を見るのは、付き合って三年目くらいで諦めたように思う。


形式に拘るわけではないのだけれど、だからと言って全てを受け入れられるはずがない。
不機嫌を装って背を向けることがせめてもの抵抗の態度。



愛してると言えば楽になるのだろうか?
形有るものが手に入れば、それ以上に何も望まなくなるのだろうか?



幾度となく自問しても、その度に答えは出なかった。
いつしか自問することも止め、ただひたすらに受動的に。
冷静になればなる程に見えてくる終わりの時。


そして、彼の嘘。


まだまだガキだったあたしが多少なりとも大人になり、さも本音だと言わんばかりに見事につかれる彼の嘘に対応するため、天邪鬼な言葉でさえも出すようになってしまった。


「愛してる」


何人の女にそう言い続けているのだろうか。拒絶するには惜しい、そんな甘い声で。

「死ぬまで俺のこと愛してくれる?」
「それまで侑士が愛してくれたらね」
「ほんなら心配いらんわ」

「一生をかける」などという不確かな約束は出来ない。
人の想いは変わり行くものであり、彼がこの先死ぬまであたしを愛してくれるという保障はどこにも無いのだから。

けれど、彼に支配されるこの瞬間が好きだ。

そう思うあたしは、相当バカな女だろうか。親に言えば泣かれるだろうか。


仕方ないのだ。嘘だとわかっていても、それに溺れてしまうのだから。
不確かな物ほどこの手に掴みたくなる。
たとえあたしの持つこの先の時の全てを費やしても、この手に掴みたい。