王宮には灯りのひとつもついていなかった。

すでに鎮圧されて、王宮内で働いていた官職に就く者たちも謹慎を命じられているか広場に集められているかのどちらかだろう。

王たちを捜してくるとオリビアと約束していたルーサーは、警備の者すら立たせていない無能者のウェルシュを嘲笑いながら馬から降りて手綱を近くの柵に括りつけて門を潜った。


「無事国外へ脱出したのならそれはそれでいいけど…」


もし抵抗して殺されてしまったのなら、まだこの王宮内に骸があるはず。

それを捜す作業は億劫だったが、真っ暗な中を歩いているうちに目が慣れてきて一通り歩き回った後、いくつかの死体を見つけたが――王たちらしき者を見つけることはできなかった。


「ジェラールはどこだ?まさか先にガレリアに戻ったんじゃ…」


それか今頃広場を歩き回ってオリビアを捜しているのだろうか?

どちらにしろウェルシュからはよく思われない行動なので、早く見つけて一緒に蛮族の巣へと行けば、待ち望んでいたオリビアと再会できる。

王宮から出て再び騎乗したルーサーは馬を急がせて広場に戻り、完全にいらついた声で怒鳴り喚いているウェルシュを落ち着かせるために教会内へと入り、階段を駆け上がってバルコニーに出た。

ここからは見晴らしがよく、もしかしたらジェラールを見つけることができるかもしれないと思っての行動だったが――

ウェルシュと目が合うとその目は完全に血走っていて、広場に集まる住人たちをひとりひとり殺しかけない殺気を放っていた。


「兄上、ジェラールを見かけませんでしたか?」


「はあ?あいつのお守りをするのがお前の役目だろうが!下らん質問をするな!」


長兄でありながら愚鈍で単純な性格のウェルシュに頭を悩ませていた父王が聡明で人々を導く能力に長けるジェラールに目をつけたのは仕方のないこと。

ウェルシュは、それを恨んでいた。


「まさか…兄上がジェラールを…?」


血走った目が明らかにおどおどして動揺した。

思わず襟首を締め上げてウェルシュが呻き声を上げると、ウェルシュの腰ぎんちゃくたちが寄ってたかって群がってきた。


「言いがかりは止して頂きたい!我らはジェラール様とはお会いしていない!ルーサー様とて許しませぬぞ!」


内心舌打ちをしたルーサーはマントを翻して教会を飛び出した。


国王たちもジェラールも見つからない。

最悪の状態に陥っていた。