ローレンは中立国故に、責められることを想定していないので街を囲む壁の高さは限りなく低い。

国王のへスターが景観を重視して緑豊かな場所を作って癒しを求める人々を受け入れた。

各諸国の中で最も平和で美しい国をモットーに建物も高さを設定してあるので、ローレンからではなく近くの平野で激しく燃え盛っている炎をすぐ見つけることができた。


「やっぱり死体の山だな。だけど数的にはガレリアの方が多いぜ。やっぱこの街は侮れねえな」


鼻につくいやな匂いが辺りを漂い、マントで鼻を押さえながらローレンへ入ったルーサーは、街の中心にある大きな広場に大勢の人々が集められているのを見て馬を止めた。

そして広場を見渡せる教会の2階のバルコニーで演説を振りかざしている長兄のウェルシュの怒声が聞こえた。


「隠し立てするとお前たちを全員殺すぞ!いいか、覇王剣を持つ者を今ここへ連れて来ればお前たちの命は保障してやる!大金もくれてやる!誰か知っている者が居たら今すぐ連れて来い!」


住人たちからはどよめきのひとつも起きない。

馬を寄せたルーサーは“例え知っていたとしても絶対に教えるものか”と皆の表情が雄弁に物語っている姿を雄々しく思い、教会の前で馬を止めて騎士たちに声をかける。


「ジェラールは居るか?」


「ジェラール様…ですか?お見かけしておりませんが。ここには来られてないのでは」


「え?いや、そんな馬鹿な…」


ここまで一緒に駆けてきたのだから、どこかに居るはず。

もしやと思って身を翻したルーサーは再び騎乗すると、7年前にジェラールとオリビアと3人でよく会っていた森の奥に向かう。

その間にもウェルシュは焦りまくった怒声を喚き散らし、醜態を晒している。


もし覇王剣を持つ者を見つけることができなかったならば、ここを攻めた意味がない。

属国にすることも適わず、各国が結託して連合軍を作り、ガレリアを攻めてくる可能性も否定できない。


「馬鹿な男だ。オリビアは絶対に渡さないぞ」


その前にジェラールを見つけなければ。

森の奥にたどり着いたルーサーは、点々と散らばる死体が残った獣道をかき分けて進み、王宮の前へとたどり着いた。