冷たいアナタの愛し方

傍に居てくれるシルバーの首に抱き着いているうちに、シルバーの銀色の体毛に点々とついている赤いものを見つけたオリビアは、森で起きた凄惨な事件を思い出して瞳をぎゅっと閉じた。


…あの時のことは、あまり覚えていない。

だが自分がリヴィを手に蛮族たちを屠っていったという事実だけははっきりと認識していた。

父たちを殺したと聞かされた時に意識が吹っ飛び、戦うためにリヴィを身体から取り出したこと――あれほど人前で出してはいけないと言われていたのに。


「お父様…お母様…お兄様たち…」


生きているのだろうか。

生きているのならば今すぐローレンに戻って会いたい。

ローレンはどうなっているのだろうか。

ガレリアと蛮族に占領されて…住人たちがきつい思いをしながら暮らしていくことになってしまうのだろうか。


「シルバー…洗ってあげなくちゃ。お風呂入る?」


「わん!」


ここがどこだかもよくわかっていなかったが…優しい人と再会できた。

ということは、垂れ目で怖い人も近くに居るかもしれないが――どうしてローレンに来て自分を助けてくれたのだろうか。


「わかんないことばかり…」


ベッドから降りてドアを開けると、暖炉のある大きな部屋には3人が揃っていた。

優しい人以外は初見だが助けてくれたことに代りはなく、オリビアはぺこっと頭を下げてシルバーの体毛についた血を指す。


「あの…シルバーを洗ってあげたくて…」


「ああ、風呂ならそこの角を右に曲がってまっすぐ行ったところだよ」


「ありがとう。……優しい人さん…」


「ん、僕も手伝おうか?」


顔を輝かせたオリビアの要請に協力することにしたルーサーは、オリビアの隣に立ってさりげなく肩を抱いた。


「もう大丈夫なの?」


「私は平気。どこも怪我してないし。…優しい人さんはどうして…」


「ルーサー。僕の名前は、ルーサーだよ」


名前を教えてもらえてまた笑ってくれたオリビアは…美しい女の子に成長した、と素直に思った。

ジェラールはきっとオリビアに会えても本音を言えずに悪態をつくのだろうが…それを想像するだけで笑いが込み上げてしまう。


「ルーサー…助けてくれてありがとう」


「…君が無事で良かった。明日はローレンに行って国王たちを捜して来るから心配しないで」


ルーサーがふっと笑った。

7年前と変わらない笑顔で。