冷たいアナタの愛し方

「知ってると思うけど、俺はガゼルだ。王子様がこんな所に女連れてきて何しようってんだよ」


「少しの間匿ってほしいだけだ。できれば何も聞かないでほしい」


頭まですっぽりマントで覆っている人らしき物体を不躾にじろじろ見ていたガゼルは、ルーサーの言葉を聞いていなかったかのように無防備の状態で近寄って来ると、マントを捲った。

直後ルーサーが背中を向けて庇ったが――ガゼルの茶色い瞳が大きく見開かれる。


「そりゃお前…ローレンの王女じゃねえか」


「…え?お…王女……!?」


「確かだと思うぜ。数年前だったか、ローレンで会合が引かれた時に犬と一緒に庭を駆け回ってた子だ。おお、お前はその時の犬か。…このでかさ、犬じゃねえな」


しっかり跡を追ってきていたシルバーは周囲を包囲しているドラゴンに対して唸り声を上げて威嚇していたが、ガゼルが声をかけるとそれまで鼻の頭に皺を寄せていたのに頭を軽く下げてガゼルに近寄った。

そしてガゼルの回りをぐるぐるして匂いを嗅いだ後、敵ではないと判断したのかまだ気を失っているオリビアの元に戻る。

オリビアがローレンの王女であることをこの時はじめて知ったルーサーは、視線を落として血の気を失っているかのように真っ青な表情のオリビアを見つめた。


「お前知らなかったのかよ。なんで王女だけ拉致なんだよ。王たちはどうした?」


「…わからない。僕とジェラールが本隊よりも先に駆けて来たんだが…恐らくはもう…」


「ふうん。で?なんで王女だけ?」


しつこく聞いて来るガゼルは、またもやオリビアをじろじろ見ている。

何故かそれにいらっとしたルーサーは、またマントを頭から被せてオリビアを隠すと、強く抱きしめた。


「匿ってほしい。できないのなら他の方法を探す」


「おいおい落ち着けよ。匿わないとは言ってないだろ。おいお前らもういいぞ。俺の客人だ、無礼なことはすんな」


未だオリビアを王女だと信じ切れていないルーサーは、すり寄って来るシルバーの背中にオリビアを乗せて落ちないように支えてやりながら蛮族の巣へと入って行く。


ローレン王国の王女がオリビア――

再びお嬢様の概念を壊されて、思わず苦笑が込み上げた。