冷たいアナタの愛し方

「く…っ、この人ごみじゃジェラールと落ち合うのは無理か…!」


ガレリアの紋章が刻まれた鎧を着ている一団がついたことでガレリアの本隊が着いたことを知ったルーサーは、王宮の方へと集結し始めている本隊に背を向けるようにして広場を通り、ローレンを出た。

ローレンは中立国で自然溢れる豊かな森に囲まれているので、ここから一番近い街と言ったら…蛮族の巣しかない。

あそこには現在長の地位にある若い男が居るはずだが…乱暴者で有名なので、頼んでも匿ってもらえるかどうか――


「今はそれどころじゃない…。オリビアを隠さないと。この剣だけは………え…?」


そっとマントをはぐってみると、オリビアが腕に抱いていた覇王剣が…消えていた。

あれは幻だったのかと一瞬思ったが、オリビアが着ている白いネグリジェには血の痕が点々とついている。

ふるふると首を振って愛馬の腹を軽く蹴って急がせたルーサーは、夜になって活発化している魔物や魔獣に注意を払いながら南下して薄暗い森の前に着く。

侵入者を悟ったのか、彼らが騎獣にしている小型のドラゴン族らがぎゃあぎゃあと警戒する声を上げて愛馬を怯えさえ、暴れさせる。


「どうどう、落ち着くんだ」


――未だ何故覇王剣が消えたのか原因不明だったが…不幸中の幸いだ。

あの創世記の一端を信じている者は多く、また蛮族たちは最も強く創世記の内容を真実と受け止めている。

場合によってはオリビアが覇王剣の持ち主だと知られればここに匿ってもらえることも可能かもしれないが――それを明かすにはかなりの覚悟が必要だ。



「こちらから暴露するわけにはいかない。少しだけ…少しだけ匿ってもらえれば…」


「おいおい、俺たちの巣に無断で入ろうとしているのはどこのどいつだ?」



身構えながら空を仰ぐと、大きな羽音を立てながら頭上から真っ赤なドラゴンが舞い降りてきた。

砂埃を立て、奇声を上げてまた愛馬を怯えさせて後ろ足で立ち上がった拍子に地面に叩き付けられる寸前なんとかオリビアを庇って脚をくじいてしまったルーサーは、剣を抜いてその紋章を男に見せた。


「ガレリア王国第4子のルーサーだ。しばらくの間匿ってもらいたい。頼む」


「へえ、今頃ローレンを攻めてるんじゃなかったのかよ。俺は乗り気じゃなかったんだけどよ」


ドラゴンの背から降りた男は、茶色の髪を短く刈り上げていかにもやんちゃそうな表情で好奇心の目を向けて来る若い男。

この男が、現在の蛮族の長だ。

ルーサーは再び頭を下げた。