冷たいアナタの愛し方

「馬鹿のでくの坊が。脳みその足りない頭で考えることは暴力のみか。これだから父上はあいつを後継者にさせることを嫌がったんだ」


戦場に出れば稚拙な命令を下すだけでのらりくらりと一線を走ることから逃れていた長兄のウェルシュ。

配下として戦線に加えられていたジェラールは、止む無く暗黙の了解の下指揮を統括し、戦場にまで女を呼んで遊んでいるウェルシュの手柄を獲ってきた。

本人は父王に気付かれていないと思っていたが――王子のうちの誰を後継者にするか悩んでいた父王は、それぞれの息子にスパイをつけて逐一報告させていたのだ。


自分の場合は、それがルーサーだったのだが。


「ルーサーはどこに行った?…結局オリビアには会えずじまいか…」


まだ家に潜んで出て来ていないだけかもしれない。

もしそうなら夜明けを迎えたら広場に住人を集めて確認すればいい。

ウェルシュたちにはいい顔をされないだろうが…この際なんと言われようと構わない。


「あいつ、少しは女らしくなったかな。どうせまだじゃじゃ馬のままだろうな。あの憎まれ口なんだ、貰い手なんか居るはずない」


小さかったオリビアが成長した姿を想像してみた。

…外見は綺麗で美しくなったが、再会する時になんと言葉をかけられるか考えてみたが――


『垂れ目。昔と代わらず怖いままね』


相変わらずの憎まれ口を叩かれる想像をしてしまい、ふっと笑みが零れたジェラールはまだ探索していなかった地下に向かい、食料の貯蔵庫の扉を開けて中を覗き込んだ。

部屋の内部は暗く、中を歩き回っていると、床に棚を動かしたような不自然な痕がついているのを見つけた。

隠し扉が近くにあるに違いないと感じたジェラールは、完全に背後を警戒するのを忘れて膝をつくと、さらなる痕跡を捜して目を凝らす。


「ジェラール様」


背後から声をかけられ、はっとなった時にはすでに後の祭り。

背中から腹に熱い何かの衝撃が伝わってきた。

恐る恐る手を伸ばして触れてみると、あたたかくてぬるりとしたものが手につき、それが血だとわかった。


「あなたが生きているとウェルシュ様が王におなりになれない。そして配下の私たちは国庫の金を好き放題使うことができない。死んで頂きます」


もうひと太刀、腹に食らった。

視界がすぐに真っ赤に歪んだ。