冷たいアナタの愛し方

シルバーがオリビアを心配して鼻を鳴らし、剣を腕に抱いたまま離さないオリビアを馬に乗せて後ろから支えるように騎乗したルーサーがジェラールを捜しに街の中へと馬を走らせていた時――

一通り大きな屋敷を中心に見て回り、オリビアらしき少女を見つけることができなかったジェラールは、最も喧騒と怒号の声が飛び交うローレンの王宮の前に立っていた。

元々軍を持たないローレンなので門番は少し腕が立つ程度の者が立っていたのであっという間に蛮族に侵入を許されただろう。

だが街中に死体が少ないのは、腕の立つ住人たちが王宮を守らんと駆けつけて健闘しているからだ。


「王たちを守れ!命を懸けて守れー!」


死体の数は蛮族の方が圧倒的に多く、騎乗する者を失った魔獣たちが庭をうろついている。

ここを攻めろと命令された蛮族たちは必要以上に暴れているらしく、無駄な殺生を好まないジェラールはガレリアの紋章が刻まれた剣を振りかざして声を張り上げた。


「治まれ!無駄な殺しはやめて住人たちを広場に集めろ!」


喧騒に包まれていたはずなのにジェラールの声は不思議と響き渡り、ジェラールの傍から次々と戦いが止んでいく。

だが血に興奮した数人の蛮族たちは剣を収めず、無言で間合いに入ったジェラールは一瞬で剣を胸に突き立てて屠っていく。


「おい、王たちはどうした。聞きたいことがあるから連れて来い」


「誰がガレリアの者に教えるものか!教える位なら死を選ぶ!」


近くに居た元軍人らしき屈強な男に声をかけたが拒絶され、仕方なく王たちを捜すために王宮内をくまなく歩き回って捜したが、見当たらない。

王宮から脱出したのか、と考えを巡らせていると、多くの蹄の音が外から聞こえた。


「ちっ、もう着いたのか」


ウェルシュが率いる本隊が到着したらしく、仕方なく出迎えたジェラールは剣を収めて馬から降りたウェルシュに状況を報告した。


「王たちは居ない。恐らくもう脱出しただろう」


「王たちは別にいい。俺が捜しているのは覇王剣の持ち主だからな。いいか、覇王剣を持つ者を手に入れれば我がガレリア王国は今以上に力を手に入れて君臨することができるんだぞ」


「…今以上に力が必要だと?」


馬鹿が、と心の中で吐き捨てたジェラールは、兄から離れてまた王宮内へと向かう。


「…今がチャンスだ。ジェラールが一人になった時を狙ってやれ」


「御意」


父王の愛情を一心に受けて育ったジェラールに向かう敵意はとてつもなく大きかった。