冷たいアナタの愛し方

金と茶のまだらな珍しい大きな瞳はあの頃と変わらない。

だが決定的に違うのは――オリビアを取り巻く雰囲気がとてつもなく近寄り難いものだった。


孤高、高潔、気高き少女――

彼女を取り巻く金色の光は彼女を守るように揺らめき、恍惚とも虚ろとも取れるとろんとした瞳と目が合った時、すぐさまひざまずいて手の甲にキスをしたくなるような衝動――


「オリビア……君なのか?7年前ここで出会った2人組の旅人を覚えているかい?僕だよ、君が“優しい人さん”と呼んでいた方だよ」


「……優しい…人さん…」


声が届いたらしいが、足元に散らばる死屍累々の屍に目を遣ったオリビアの表情は恐怖でもなく慄きでもなく、石ころを見るような冷めたものだった。

父たちからは冷静な分析をすると誉められていたルーサーは、オリビアに十分な注意を払いながら彼女が握っている金と銀の珍しい長剣を観察した。

柄には親指大のいくつかの大きな宝石のような石が埋め込まれてあり、剣からも金色の光が噴き出している。

何かに取り憑かれているのかと一瞬たじろいだが――ガレリアの王宮でウェルシュを筆頭に兄たちが言っていた言葉が頭をよぎった。


“ローレンに覇王剣を持つ者が居る”


創世記に記されてあり、だが伝説の域を出ない幻の剣の一節。

その者が現れる時、大陸を平定して良き時代が訪れるという夢物語のような、お伽噺のような――

創世記は小さな頃に少し読んだ程度だったので、もっとよく見るべきだったと内心舌打ちしたルーサーは、馬から降りてオリビアに手を差し伸べた。


「君が覇王剣を持つ者なのか…?こんな…こんな小さな少女が?」


「……」


今度は返事がなかった。

オリビアの腰には剣を収めるべき鞘がなく、脚は素足。

薄い白いネグリジェ姿のオリビアは可憐でいて妖艶でいて…こんな姿は他の男に見せるべきではないと思ったルーサーはマントを脱いでオリビアに差し出す。


「蛮族や本隊に見つかる前に隠れよう。あとジェラールとも合流して……オリビア!?」


ぷつんと何か糸が切れたかのように急にオリビアの身体が傾いで倒れ伏す。

駆け寄ったルーサーは予想以上に軽いオリビアの体重に驚きながら、マントにくるんで姿を隠した。