冷たいアナタの愛し方

「二手に分かれよう。俺は右回りに大きな屋敷を中心に回る。お前は左回りに。…くそっ、これはやりすぎだろうが」


街はすでに業火に包まれ、陥落寸前だった。

だがかつてオリビアが言った通り、ここには各国の元軍人が多く住んでいる街なので、ただ逃げ惑うだけではなく剣を手に果敢に戦っている者も多い。


「ああ、これは…ひどい…!オリビアを早く見つけないと…。……ん?」


騎乗したまま四方を見回していると、王宮の方にある森の奥から空をつんざくような金色の光が立ち上っているのが見えた。

あきらかにカンテラのような小さな光ではなく、空を真っ直ぐに突き刺すような金色の光だ。


「あっちは…オリビアとよく会っていた森だ。…行ってみるか」


馬の腹に軽く蹴りを入れて気合いを入れると、戦場においても自分の行動をよく理解して動いてくれる黒褐色の愛馬は生きたい方向に走ってくれる。

…王宮はすでに落ちただろう。

ガレリアの本隊が到着せずにローレンが陥落寸前なのは、長兄のウェルシュが手を結んだ蛮族たちが戦いを楽しんでいるからだ。

父を暗殺してから好き放題やっているウェルシュは、国庫を湯水のように使っている。


「あの馬鹿が…。やっぱり王になるのはジェラールしか居ない。いずれ…」


そこで言葉を切ったルーサーが森に入ると、何故か肌がびりびりして馬を止めた。

そして剣戟の音が聞こえたので辺りに注意を払いながら愛馬を進めて様子を窺う。


「なんだ…?この死体…どうしたんだ…?」


点々と散らばっている死体。

確実に死を狙っているのかほとんどの死体は首を刎ねられ、倒れ伏している。

手だれにしかできない所業で、単身乗り込んでしまったルーサーはそれを後悔しつつ後に引き返すことができずに前進した。


遠くに見えていた金色の光がゆっくりと近付いてくる。

眩しくてまともに直視できず、手を庇代わりに瞳を細めると――


その中心にはひとりの美しい少女が剣を手に、舞っていた。


「…オリ…ビア……?!」


珍しい金と茶のまだらな髪。

ひとつひとつの動作に隙は全くなく、蝶のように舞う少女。


「オリビア!」


大声で名を呼ぶと、切り結んでいた最後の男の首を刎ねた少女の動きが止まった。

そして、振り返る。

恍惚とした表情で。