冷たいアナタの愛し方

深夜に差し掛かった時――轟音が耳をつんざいた。


慌てて飛び起きたオリビアは窓の外が真っ赤に染まり、あちこちで上がる悲鳴を聞いてネグリジェ姿のままベッドから抜け出して窓辺に近寄る。


「な、なに…?街が…街が壊れてる…!」


普段窓から見えるのは、生い茂る緑の木々と平穏な煉瓦作りの家並みのはずだが――

木々は真っ赤に燃え上がって火の粉をまき散らし、家並みは半壊もしくは全壊して崩れ落ちている。

そして空には――


「蛮族…!どうして…どうしてここを襲ってるの!?」


協定があるはず。

ローレンは中立国で時に国同士の諍いを仲介する役割を持つ。

故にどの国にも肩入れせずに独自の体制で成り立っているのでどの国の力も介入できないし受け入れることはない。

蛮族の長も毎年行われる各王国の会議に出席しているので協定の意味を知っているはずだ。


「オリビア!無事か!?」


「お父様!これは…これはどういうこと!?」


部屋に駆け込んできた父のへスターは今まで見たことがない鎧姿。

…戦が起きるのだと知って身震いしたオリビアは、庭から聞こえるシルバーの狂ったような鳴き声を聞いて窓を開けると、熱風が襲ってきて顔をしかめた。


「何が起きたのかわからないんだ。だが今実際蛮族から襲われている。お前は…お前は逃げなさい!」


「え!?で、でも父様…逃げるならみんなで一緒に…!」


「私は情報をかき集めて精査しなければいけないからお前は先に逃げなさい!お前は…お前は死んではいけないんだ。いや…神に愛された者なら死ぬはずがない!」


後半の言葉は意味がわからず、半パニックになっているオリビアはへスターの肩を揺らして首を振る。


「私だけ逃げるなんていや!街のみんなは…!?母様やお兄様たちは!?」


「事情によっては街の皆と戦うよ。心配することはないよ、元々は皆屈強な戦士だからね」


安心させるように笑ったへスターは、窓辺に身を乗り出して鳴いているシルバーを確認すると、オリビアを抱っこして混乱する2階から1階へ降りて庭に出て駆け寄ってきたシルバーの目をじっと見つめた。


「シルバー…オリビアを頼む。お前が守るんだ。…私たちの代わりに」


「……わん!」


オリビアは空を見上げた。

真っ赤に染まる空を。