冷たいアナタの愛し方

ここ数日オリビアがこそこそしている――

娘が何やら不審な行動を取っていることに気づいていた父のへスターは、ディナーの時間に楽しそうにアンナと談笑しているオリビアに声をかけた。


「最近いつも以上に楽しそうにしているが、どうしたんだい?」


「そ、そう?そんなことないよ、座学が退屈だから外に出るのが嬉しいだけだよ」


あからさまに嘘をついていますという態で目が泳いでいるオリビアに笑みを返したが…オリビアは養女ではなく本物の王女だ。

回りにも本人にも養女と言い聞かせているので外出も許可しているが、ここ数日の様子は明らかにおかしいので対策を立てなければならない。

それにコックから食事の量を増やしてほしいとオリビアから言われたという報告も受けていたので、へスターは翌朝早速行動に移った。


「オリビアが外出したら気付かれないように後をつけてくれ。…養女と言えど娘が心配でね」


鎧姿ではなく平服に着替えさせた衛兵に笑いかけると、過保護ですねと笑われながら承諾してくれた。

座学終了後にまず台所に寄ってコックからバスケットを受け取り、裏門を通って後をつけられていることも知らずに軽快にスキップをしながらどんどん森の奥へと行くオリビアを追いかけた衛兵は、1匹の子犬と旅人風の2人組の男と談笑しているオリビアを見つけてつぶさに観察を始めた。


彼らはマント姿だったが、時々ちらりと見える腰には帯剣しており、身なりも平民ではない上等なものを身につけている。

もっとよく観察してみると、剣の柄には蛇が自身の尾を呑み込んだ紋章…ウロボロスが刻まれていた。


「あれは…っ、ガレリアの国章…!」


軍需産業が盛んで、さらに軍事大国として小国を戦で落としながら吸収していくガレリア。

最近では家督騒動が起きているという噂が耳に入ってはいたが…紋章が刻まれた剣を持ち歩いていいのは国の中枢に携わる者に間違いない。

いくら中立国といえど彼らがローレンにやって来て養女のオリビアと接触したことに脅威を感じた衛兵はすぐさま王宮に戻り、へスターに報告をした。


「ガレリアの者が…!?まさか…オリビアが狙われているのか?」


「いえ、親しげだったので悪意は感じませんでしたが…一応オリビア様をしばらくの間外出させない方がいいかと」


アンナが唇を震わせてへスターの手を握った。

秘密を知られてはいけない。

絶対に――