冷たいアナタの愛し方

満足したウェルシュが腰巾着たちと共に城へ去り、オリビアは中庭の芝生に座り込みをしてそこから動かない姿勢を示した。

「もう。危ないことはしないでくれるかな。心臓が止まるかと思ったよ」


「私もうその人の離宮に帰りたくないの。だからお城の地下に戻るわ。用がある時だけ呼んで」


「それは困るよ。ジェラールは気難しくて、無理矢理世話をしてくれる者をつけてもすぐ追い出してしまうんだ」


「私は追い出されたんじゃなくて、自分で出たの。あんな口が悪くて感謝のひとつもできない男のお世話なんかできないわ。それに人の気持ちを汲まないウェルシュと何ら変わらない愚王になりそうだし」


「なんだと?」


それまで黙っていたジェラールの堪忍袋の緒がついに切れてオリビアに詰め寄ろうとした。

だがそれよりも先にシルバーがジェラールの動きを読んで先回りをしてオリビアの前に立ちはだかる。

ジェラールは仕方なく詰め寄るのをやめて、オリビアに指を突きつけた。


「食事を不味いとは言ってないし、お前は感謝の言葉を俺が口にすれば満足なのか?そういうのはお前が汲み取るべきだろうが。王になろうとする者が簡単に感謝の言葉なんか口にするものか」


「ほらルーサー王子、今の聞いたでしょ?王になる資格があるのはあなたみたいに優しくて強い人がなるべきだわ。とにかく私、戻るから」


あの狭くて暗くて、あんな場所に居るとすぐ弱って病気になってしまいそうな場所に返すつもりのないルーサーは、がりがり髪をかき上げて肩で息をついた。


「じゃあ今日は僕の離宮に。見せたいものもあるし」


「え…っ。あ、あなたの離宮に?私が…泊まってもいいの?」


目を白黒させているオリビアに笑いかけているルーサー。

…もし自分が同じ立場ならば、ただ泊まらせるだけでは済まさないと妙な絶対的自信を持っているジェラールは、シルバーの硬くて太い髭を引っ張って痛がらせて押しのけた。


「それは駄目だ。お前は俺の奴隷だろうが。次に脱走すると許さないからな」


「ちょ…横暴よ!私の料理なんて料理じゃないんでしょ!?」


「それでも食う!……早くついて来い」


呆気に取られているオリビアの二の腕を掴んで引きずりながら離宮に戻って行くジェラールが嫉妬していることに気付いていたルーサーは、腰に手をあてて苦笑を濃くする。


「ひねくれ者だなあ」