冷たいアナタの愛し方

シルバーの背中に乗ったオリビアの姿は瞬く間に城最上階の政務室に居たウェルシュの耳に入った。


「あの跳ねっ返りのウサギがとうとう巣穴から出て来たか!ここに呼べ!今すぐ連れて来い!」


丸々と太ったそばかすだらけの顔の酒樽のような男が顔を真っ赤にして声を荒げたが、彼の腰巾着たちは揃って顔を見合わせると、言いにくそうに上目遣いでぼそぼそと言い訳をした。


「それが…あの犬がすばしっこくて捕まえられないんです。あの女奴隷を背中に乗せたままあちこち歩き回っているのでどうにもできず…。矢でも射ますか?」


「馬鹿を言うな!あの女に傷をつけたら許さないからな!くそ…もうジェラールの手にかかっているとは予想外だったが…」


――あの末っ子は何をするにも器用で、父母に愛されていた。

自分も幼い頃はそれなりに愛されていたはずだが、ジェラールは突出した剣術や策士になれるほどの才能があり、何にもまして母に似て美しかったために父王に深く愛された。

それだけでも目障りだったのに、あの弟が後継者に選ばれるかもしれないという噂話を耳にした時――頭の中でぷつんと何かが切れた音がしたこと…忘れられない。


「暗殺、か。お前たちがしくじったからジェラールは戻って来たんだぞ。次はどうするつもりだ?ああ?」


「ルーサー王子が目を光らせているので毒を混入させることは不可能かと。ウェルシュ様、蛮族を使って襲わせてみてはいかがでしょうか」


「あいつらを動かすのには莫大な金が必要になるな…。まあ俺が王位に就けばどうとでもなるか。よし、ガゼルに遣いを出せ。俺はこれからあの女奴隷を捕らえに行く」


完全にオリビアに執着してしまったウェルシュは、政務をするにあたって座る似合いもしない立派なオーク木材の大きな机いっぱいに散らばった書類を読みもせずに立ち上がると、いそいそと政務室を出て緩やかなスロープを小走りに駆け降りて行く。

オリビアの動向は逐一報告されていたので、今は庭に居ると聞いたウェルシュは太り過ぎですぐ息が上がってしまう心臓を押さえながらなんとか降り切って庭へと飛び出た。


「おいお前!こっちに来い!」


いよいよ目的の男が登場して、オリビアの微笑が濃くなった。