冷たいアナタの愛し方

「なんなんだよお前。本気であのがりがりを嫁に貰うつもりか?」


「違うよあれは半分冗談だから」


「…じゃあ半分は本気ってことか?ここには静養に来ただけなんだからどこのどいつだかわからない変な女と親しくなるな」


オリビアと別れた後案の定ちくちくと釘を刺してきたジェラールに乾いた笑みを返したルーサーは、夕闇が迫ってきた赤い空を見上げてため息をついた。


「元軍人が多いということは、ここを攻めた場合簡単には落ちないってことだね。中立国だからここに手を出せば各国が黙っていないだろうけど…」


「こんな田舎攻めたって何の意味もない。それより俺の命を狙ってる兄上たちが厄介だ。俺を推す奴らも厄介だ。父上が俺を国王にとか言うからこんなことに…」


「兄上たちよりも君が優れているという証だよ。今僕たちがローレンを訪れていることは父上しか知らない。目立った行動をしては駄目だ。…ちょうどいいんじゃない?また明日もオリビアと会う約束をしてるし、カムフラージュにもなるよ」


ジェラールの母は美しく、良い資質ばかりを受け継いだジェラールは冷たい印象こそあれどものすごく女に人気がある。

次期国王ともてはやされるようになってからはさらに熱気が高まり、今のうちに唾をつけておこうと近付いてくる女も後を絶たず、ジェラールの女嫌いは余計に深刻さを増していた。

そんな中オリビアには心を開いているように見えたので、ガレリアに戻ったらオリビアの素行調査をして本格的に第2王妃のポジションに据えようと考えていたルーサーは、ジェラールをさらにけしかけた。


「僕は明日もうちょっと街を見回るから、ジェラールは先に行ってて。くれぐれも喧嘩はしないように。小さい女の子だけどレディーとして扱ってあげて」


「ふん、それは無理な相談だな。あれがレディーだと?身なりこそ女らしいが中身は…」


またオリビアの悪口を言おうとしていたが――ルーサーは見抜いていた。

ジェラールもまだまだ子供の域を出ていない。

気に入っているからこそからかったり文句を言ったり…つまり好きになりかけているのだろう。


5才の差ならば何の問題もない。

むしろオリビアがあのままの性格で居続けられれば…悪いが嫁の貰い手は無いだろう。

…ジェラール以外は。


「泣かせちゃ駄目だよ。いいね?」


兄の忠告に渋々頷いたジェラールは、翌日も早々に宿を出て森の奥に向かった。