まるでからかうように放つ保健医の言葉に、真幸は赤面して袖口で口元を必死になって拭い、手櫛で適当に髪形を整えた。

その光景に保健医は笑う。“冗談だよ”と。


「からかわないで下さい……」

「諦めて帰ってくれると思ったんだけどな」

「はぁ……そんなに帰ってほしいなら帰ってあげますよ」

「うん。それで良い。一之瀬君は微妙に残念がるだろうけど」

「何でその名前が出てくるんですか」


このやりとりでは全く関係のない男の名前が出てきた事に、真幸は疑問を抱いた。

まさか保健医に何か吹き込んだのではないだろうかと、嫌な予感すら覚えたが、不運にもそれは的中してしまう。


「いやね、カバンを置きに来た時に言っていたんだよ。もし放課後になっても起きなかったら、叩き起こして一緒に帰ってやる、って」

「それは、それは……ではさっさと帰ります。一緒に帰るなんて気持ち悪い」


冗談ぽく笑いながら話す保健医とは正反対に、真幸は眉間に皺を寄せ、

露骨に不機嫌さを露わにし、勢いよくドアを開けて去って行った。