遡ること二年前の春。当時中学三年生の一之瀬由陽(いちのせ・よしはる)の隣に新たに住人が越して来たのは。

“ああ、新しい人が来たんだな”と、それくらいにしか彼は考えていなかった。


「お隣に越してきた遠川(とおかわ)さんの所ね、真幸(まさき)君って言ったかしら?
お前と一つ上の子なんだけど。仲良くしてあげなさいよ?」

「……気が向いたら」


由陽には仲良くする気は全くなく、返事も適当なもの。

以降、数回会っただけで仲良くなる事は一切なかった。

その一年後。高校の入学式当日。由陽は新入生代表として挨拶をする真幸の姿に目を疑った。

自身の記憶が間違っていなければ、真幸は自分より年上と認識している。

その彼がどうして在校生ではなく新入生としてこの場にいるのか。

それが不思議でならなかった。真意を確かめたくても、由陽と真幸のクラスは端と端。

そしてそこまで仲の良い関係でもない。つまりは聞きたくても聞くことはできない。