いきなり鋭くなった声に、えっと前を見ると、相手コートの男の子が私を狙っているところだった。

恐怖でとっさにうしろを向くと、そこそこの衝撃が背中に来て、一瞬息がとまる。

あたっちゃった、と身体を固くしていたら、はいセーフ、とB先輩の声がして、見ればノーバウンドで拾ってくれたらしかった。



「来るってわかってるのに、背中向けちゃってどうするの」

「だって…」

「左右に動くんだよ。ボールの軌道から出なきゃ」

「無理です」

「じゃあ、キャッチするしかないね」



無理です! と泣き声をあげると、ぽんと手の上でボールをはずませた先輩が笑う。



「とりあえず、仇はとってあげる」



言うなり陣地を仕切るラインに向けて数歩走り、ひらりと身を躍らせたかと思うと。

さっき私にあてた子目がけて、空中から容赦なくボールを叩きこんだ。


バチン、という痛そうな音と共に、男の子の脚にあたったボールが跳ね返って、もう一度こちらの陣地に戻ってくる。

トントン、と転がるそれをB先輩が拾いあげた時、あぜんと見ていたみんなが、敵味方それぞれに沸いた。



「やべえ、Bの奴、ハンドボーラーだ!」

「やった! 勝ったも同然じゃん、俺ら」

「卑怯すぎだろ、B」

「怖がってる子狙うほうが卑怯だろー」



もいっちょね、と言いながら、B先輩が再び敵陣の先輩をひとり打ちとり、外野へ追い出す。

高々と跳躍して放たれるボールは、逃げ場を狭め、かつ空中で自在に狙いを変えられてしまうので、逃げにくい。

そのうえとんでもないスピードで、しかもよけづらい足元を正確に刺すので、あっという間に数人を餌食にした。



「すごいです!」

「パチパチじゃないよ、来るよ、ほら」



敵も本気になったらしく、手ごろなのから出すことに決めたんだろう、外野がボール回しをしながら、明らかに私を狙っている。

同じ陣地に残っている人たちが、卑怯ーと揶揄するも、もう先方もなりふり構っていられないらしい。

のんきに拍手していた私は、ひえ、と硬直した。